読んだ - 「海の仙人」

「海の仙人」(絲山秋子新潮文庫)

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生きて死ぬ以上、これまで出会ったひと全員と
必ず別れる、必ず。
仲違い、疎遠、振る・振られる、
病死、事故死、自殺、老衰、エトセトラ、エトセトラ。
一つずつの別れは悲しいけれど、
最終的に全てのものとおサラバするのだと思えば
違いはただその時が早いか遅いかだけで
それほど悲しむ必要は無い。
と、理屈ではわかる。
けれど現実に悲しみはなくならない。
そんな時の痛みを少しだけ分かち合ってくれる、
それが「海の仙人」。


主人公の男性である河野以外に登場するのは主に女性が二人、
それからファンタジーという名のおかしな神様もいるけれど、
女性二人のうち一人とは物語が進むうちにつながりを失くし、
一方とはそもそもつながってすらいない。
悲しい。悲しくて痛い。
けれど河野はそれを受け容れる。必要なこととして。
その河野の態度が、読む人の抱える孤独を少しやわらげる。


正直に言うと、悲しい物語はあまり好きじゃない。
悲しいとか生きる孤独とか別れの必然を表現した物語は、
私がそれらを実のところあまり信じていない
(のか信じたくないのか)せいもあり、
それほど良かったと思わないことが多い。
けれど「海の仙人」はあまりに静かに孤独を描き、
それがすぐ隣にあるふうだから、
うっかり許容してしまった。むしろ心に残った。
本当は向き合いたくない、生きていく中でときどき訪れる、
さみしさ。
人をそこから少しだけ救い出してくれる小説。
今まさに痛みを感じていなくても、
人生のどこかにさみしさがあると
知っている人に読んでもらえればと思う。