読んだ - 「通天閣」(西加奈子・ちくま文庫)

通天閣西加奈子

友人に勧められて読んだ、2012年の「ふくわらい」が
しっちゃかめっちゃでとても良かったので、
他の小説もこれぐらいしっちゃかめっちゃかなのか
それともこの「ふくわらい」だけなのか気になって、
2006年の「通天閣」も読んでみた。
近しい程度にしっちゃかめっちゃかで、やはりとても良かった。

女と二度と暮らさないため、敢えて小さな部屋に住み、
百円ショップへ卸す商品を作る工場で
作業スピードの速さをプライドの支えに働く四十四歳独身の男と、
自分を置いて夢のためにNYへ行ってしまった恋人への当てつけに
ぼったくりスナックで働き始め、
鏡に向かって「別れたわけではない」と言い聞かせるいい年の女。

どちらも孤独で、二人を取り巻く人たちも同じほど孤独で、
その孤独さはオカマとかどもりとかタクシーの整列行動という
登場人物たちのどうしようもないクセからも透けて見える。
本人にもどうにも変えられないそのクセが
その人を苦しめもすれば
大勢の人間の中で
その人をその人の形に浮かび上がらせる輪郭線にもなる。
輪郭は人それぞれ違っていて、
その一人はほかの誰とも違う
生きて気持ちと形のある人間なんだという
当たり前の生々しさと直結している。
生々しいだけに、ゲロとか汗とかもついて回るのだけど。

誰かとかかわるということは
自分のクセを少なからず他人のクセとこすりつけ合わせること。
その摩擦が主人公二人を他人から遠ざけ続けたけど、
ふとした拍子にぶつかってた相手が
自分の中にぽうんと放り込まれることもある。
二人が最後に他人を自分の中に入れ(ようとし)たみたいに
ぐっちゃぐちゃでもみっともなくても、
生き続けているうちに
どこかでまた他人と交わり直せるんじゃないか、
そのための一歩進む力をくれる小説。

私がこの先どれほど他人と深く関わることができるかわからないけど
途中で転んで怪我して痛くても、
それでいいんだ、みっともなくていいんだという
心強さをもらった。